毎日新聞2024年8月16日付朝刊は『「スロー地震」活発化 日向灘 M8級誘発の可能性』と報じている。日本列島に深刻な被害をもたらす南海トラフ巨大地震が発生するかが何よりの気がかりだが、政府の地震調査委員会は「現時点でプレート境界に異変を示すデータはない」としている。しかし、気になる動きも観測されている。8日の地震の数時間後から、日向灘の浅い場所で「スロー地震」と呼ばれる地震が、断続的に強弱を繰り返しながら現在まで続いているのだ。スロー地震は、通常の地震と比べ断層がゆっくり滑る現象で、それだけでは大きな揺れを起こさないが、通常の地震と同じ規模で断層のひずみを解放している。2011年の東日本大震災では、3月9日の前震(M7.3)の後にスロー地震の一種「スロースリップ」が発生し、それが11日の本震(M9)につながっていることが分かっている。南海トラフ沿いでは、陸のプレートとフィリピン海プレートの境界が固くくっついていない領域でスロー地震が起こる。京都大防災研究所宮崎観測所の山下助教(観測地震学)によると、この境界の浅い場所で8日以降、スロー地震が観測され始め、活発化しているという。山下さんが観測したのはスロー地震のうち、0.1~0.5秒周期の「低周波微動」と10~20秒周期の「超低周波地震」という2種類の微弱な揺れ。詳しい位置は海底地震計を設置して調べる必要があるが、宮崎県沿岸の南東50km以上の海底下、南北と東西に約100kmの範囲で起きているとみられる。M7級の大きな地震の後にはスロー地震が誘発されることがあり、また、日向灘では数年に1回の頻度でスロー地震がみられることから、この現象がただちに「異変」とは言えない。ただし、山下さんは「スロー地震との相互作用で、地震が巨大化すること」を警戒する。
日向灘南部ではこれまで約30周年周期で大きな地震が起きている。前回は1996年10月にM6.9、同12月にM6.7が連発。前々回は61年2月にM7が起きた。1662年10月にはM8級の巨大地震が発生した可能性が指摘されており、宮崎平野を高さ4~6mの津波が襲ったとされる。山下さんは「今回の地震の割れ残りが単独で動けばM7級、スロー地震と相互作用した場合はM8級を起こしうる。スロー地震の活発化はプレート境界がいまだ不安定であることを示しており、納まるまで1カ月程度経過を見る必要がある」と語る。京大防災研の西村卓也教授(測地学)によると、スロー地震は、それが起きている場所ではひずみが解放されるため基本的に大地震を引き起こさないが、東日本大震災のように地震の巨大化を誘発する可能性があるという。「スロー地震の動向は、大地震につながるかどうかを見極める情報になる」と観測の意義を強調する。